Azuma アズマ

”RUN A) WAY”

“疾走”

“重松 清”氏による同題名の小説が、今回25SSコレクションのテーマです。 当時17歳だった僕は、衝撃的な表紙に導かれるようにこの本を手に取りました。

物語はヨブ記をはじめ聖書の一節を擬えながら進行する。 (読んでいただきたいので詳しい言及は避けます。) 環境や周囲の人間に巻き込まれ、理不尽な運命を背負った少年の話は読み進めることを躊躇するほど重い話だが、 なぜかリアリティがあり、集落の雰囲気や親兄弟との関係、学校での人間関係など自身のことのように思わされた。 「孤高、孤立、孤独の違い」や「穴ぼこの目」など、僕の人格形成に大きく影響を与えた作品です。

物語の内容はもちろん、表紙のインパクトも衝撃的でした。 小説の入り口として表紙は重要だが、こんなにも内容を体現した表紙があるだろうか。 闇に浮かび上がる悲痛な叫びをあげる表情の人物。
”Phil Hale”氏のペインティング(タイトル"the anguish of the night recedes before the slow bulb of research")の 恐ろしいほど衝撃的な印象は、強烈に何かを訴えかけてくる。 それはの叫びは小説の主人公シュウジ、エリ、神父、その弟の宮原雄二など苦境に立たされている登場人物であり、 当時の自分であり、時代を生き抜こうとする全員なのだと思います。 血を流しながらも生き抜く強さはAzuma.が叫び続けてきたことでもあります。

シーズンタイトルの”RUN A) WAY”

”RUN AWAY ( 逃避 )”という意味で、小説作中で主人公が自身にそうではないと云い聞かせている言葉だが、 本コレクションでは”RUN A WAY ( 切り開く )”と解釈し、 若さゆえの弱さや失敗も、未来を切り開く要素になると体験から実感しているからこそ 失敗を恐れず、心の決断を恐れず生き抜いて欲しいと想いを込めました。

大柄ジャガードで表現された”Phil Hale”氏のペインティングが織られたファブリックシリーズ。 小説を通して出会って以来、圧倒的なインパクトと繊細さを含む彼の作品のファンであった為、 今回の”Phil Hale”氏と直接コンタクトをとり、コラボレーションが実現しました。

”Eimi Suzuki”氏によるヨブ記をなぞらえ人の暗部が描写された宗教画。

小説作中に登場する教会のような”日本”と”西洋”が共存したテーラード、スラックスやレイヤードコート。 キリスト教による”清貧”を表したミリタリージャケット。 キリストが滲み出たかのようなスウェットセットアップ。十字架要素や、神父の正装の要素が盛り込まれたディティール。

環境や周囲の人々に奔走され、擦れていく主人公を表すかのようなクラストファブリックなど。

“疾走”を読んだ方には伝わる服のディティールが多くあるかと思います。 服を通じて小説に興味をいただいてもかまいません。それが同作品でなくとも。

願わくば、17歳の僕がそうだったように、人生の教典になる作品に出会っていただければ幸いです。

Azuma. / ANTICRAFT design 東 研伍